民法177条,非常に基本的な条文ですが,民法177条をきちんと理解して様々な知識につなげられている方は,あまりいないと思います。
色々な知識につなげられるのですが,今日は1つ。
 

土地に権原なく建物が建っている場合

基本事例

物権的請求権の項目で説明される,以下のような事例です。
※私の基礎講座をご受講中の方,ご受講いただいた方は,『Realistic Text 民法Ⅰ』P150(3期・2期はP144)をご覧ください。

基本事例
Aが所有している土地の上に,Bが無権原で建物を建てている。
151017土地に権原なく建物が建っている場合

Aは,自分の土地に勝手に建物を建てられているので,当然Bに,建物を収去し土地を明け渡すことを請求します。
このとき,Aは誰に対して建物収去土地明渡請求ができるかが問題となります。

原則

請求できる相手方は,建物の実質的所有者のみです(最判昭35.6.17,最判昭47.12.7)。
上記事例だと,請求できる相手方はBです。
仮に,BがCに建物を譲渡していれば,請求できる相手方はCとなります。

例外

BがCに建物を譲渡したが,Bがまだ登記名義人である場合,Bが自らの意思で所有権の登記を有していたときは,まだ登記名義人であるBに対しても請求できます(最判平6.2.8)。
なお,Cに対しても請求できます(上記の原則)。 
 

微妙な事案

上記の原則と例外が基本ですが,以下の微妙な事案の場合,請求の相手方は誰になるでしょうか。
A所有の土地上に,Bが建物をAに無断で建築して所有しているが,Bとの合意によりCが建物の所有権の登記名義人となっている(26-7-アの事案)。 

この場合は,Cに対しては請求できず,Bに対して請求するしかありません(最判昭47.12.7)。
「Cは,Bとの合意で登記名義人となっているんだから,Cも請求されて当然なんじゃないの?」と思われるかもしれません。
AとCのどちらがかわいそうかを考えたら,そう考えてしまうかもしれません。
「どちらがかわいそうか考える」で押し切ろうとする教え方もあります。
しかし,それだけではわかりません。

判例の考え方

判例が,なぜ上記の原則と例外の考え方を採っているかを理解すれば,例外の判例の射程(どのような事案に当てはまるか)がわかります。
それを理解するカギが,実は民法177条なのです。
判例は,「建物収去土地明渡請求は,実質的所有者にすべき」(上記の原則)だと考えています。
これが,大前提です。
では,上記の例外はどうでしょう。
再度,上記の例外を記載します。
BがCに建物を譲渡したが,Bがまだ登記名義人である場合,Bが自らの意思で所有権の登記を経由していたときは,まだ登記名義人であるBに対しても請求できます(最判平6.2.8)。
「Bはすでに実質的所有者ではないから,Bには請求できないのでは?」となりそうです。
しかし,民法177条がありましたよね。

民法177条(不動産に関する物権の変動の対抗要件)
不動産に関する物権の得及び変更は、不動産登記法(平成16年法律第123号)その他の登記に関する法律の定めるところに従いその登記をしなければ、第三者に対抗することができない。

「物権の得」とあります。
つまり,物権(この事例では所有権)を失ったことは,登記をしないと「オレは関係ない」と言えないのです。
Bは,建物の所有権をCに譲渡していますが,登記をしていないので,「オレは関係ない」とAに言えません。
これが,判例の考え方です。
では,上記の微妙な事案はどうでしょう。
再度,以下に事案を掲載します。

A所有の土地上に,Bが建物をAに無断で建築して所有しているが,Bとの合意によりCが建物の所有権の登記名義人となっている(26-7-アの事案)。 

たしかに,Cは登記名義人ですが,Cはそもそも物権(所有権)を有したことがありません
よって,「登記をしなければ,物権を失ったことをAに主張できない」とはならないのです。
上記の例外の「Cに建物を譲渡したが,まだ登記名義を有しているB」と異なり,Cは所有権を有したことがないので,「民法177条があるから,『オレは関係ない』とAに言えない」とはならないのです。

この間違いやすい論点も,実は誰でも知っている民法177条から考えられるかで決まるのです。
「どちらがかわいそうか考える」だけではなく,きちんと法律の考え方を学ぶと「理解」ができます。
これが,「基本から考える」ということです。
 
 
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松本雅典

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