株主リストについての情報をまとめて記載します。
長くなってしまいましたが,この記事自体がレジュメのようなものだと思ってください。
目次
改正日・施行日
平成28年4月20日改正
平成28年10月1日施行
平成29年度以降の司法書士試験の試験範囲です。
以下の説明をお読みいただければわかりますが,商業登記(記述)での出題確率は高いです。
平成29年度の商業登記(記述)でも,早速出題されました。
条文
まずは,新設された条文を確認しましょう。
商業登記規則61条(添付書面)
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2 登記すべき事項につき次の各号に掲げる者全員の同意を要する場合には,申請書に,当該各号に定める事項を証する書面を添付しなければならない。
一 株主
株主全員の氏名又は名称及び住所並びに各株主が有する株式の数(種類株式発行会社にあつては,株式の種類及び種類ごとの数を含む。次項において同じ。)及び議決権の数
二 種類株主
当該種類株主全員の氏名又は名称及び住所並びに当該種類株主のそれぞれが有する当該種類の株式の数及び当該種類の株式に係る議決権の数
3 登記すべき事項につき株主総会又は種類株主総会の決議を要する場合には,申請書に,総株主(種類株主総会の決議を要する場合にあっては,その種類の株式の総株主)の議決権(当該決議(会社法第319条第1項(同法第325条において準用する場合を含む。)の規定により当該決議があつたものとみなされる場合を含む。)において行使することができるものに限る。以下この項において同じ。)の数に対するその有する議決権の数の割合が高いことにおいて上位となる株主であつて,次に掲げる人数のうちいずれか少ない人数の株主の氏名又は名称及び住所,当該株主のそれぞれが有する株式の数(種類株主総会の決議を要する場合にあっては,その種類の株式の数)及び議決権の数並びに当該株主のそれぞれが有する議決権に係る当該割合を証する書面を添付しなければならない。
一 10名
二 その有する議決権の数の割合を当該割合の多い順に順次加算し,その加算した割合が3分の2に達するまでの人数
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商業登記規則61条2項と3項に入ります。
よって,旧規定の商業登記規則61条2項~7項が,それぞれ2項ずつ繰り下がります(「61条の2で新設してください」という意見もあったのですが……)。
これ,よく出てくる項が多いんですよね……。
・商業登記規則61条2~4項(4~6項になります)
→就任承諾・選定を証する書面についての印鑑証明書の規定です。
・商業登記規則61条5項(7項になります)
→本人確認証明書の規定です。
・商業登記規則61条6項(8項になります)
→登記所に印鑑を届けている代表取締役などの辞任を証する書面についての印鑑証明書の規定です。
・商業登記規則61条7項(9項になります)
→資本金の額の計上に関する証明書の規定です。
5項と6項は,「平成27年に加わったばかりなのに,もうズレるのか!」ってハナシですよね。
改正の趣旨
株主総会議事録などを偽造して虚偽の役員の変更登記を行い役員になりすますなどの犯罪や違法行為が後を絶ちませんでした。
そこで,不実の株主総会議事録などが作成されて虚偽の登記がされることを防止するため,株主リストの添付が要求されることになりました。
平成27年の本人確認証明書とは真実性の確保を図る対象が異なりますが,厳格化するという意味では同じです。
なお,後述しますが,この株主リストの作成者は代表者であり,代表者が株主リストに登記所届出印で押印します。
ただ, 虚偽の登記がされていたということは,登記所届出印を勝手に押される,盗まれるなどという事態が生じていたと考えられます(商業登記の申請では,原則として代表者が申請書または委任状に登記所届出印で押印します)。
よって,株主リストも虚偽のものが作成される可能性が考えられます。
しかし,「株主リストを添付させておけば,事後的に株主名簿などと確認ができる」といった理由から,意義があると考えられています(法務省が考えています)。
株主リストが要求される登記・株主リストの内容
株主リストが要求される登記と,それに応じた株主リストの内容は,以下のとおりです。
1.登記すべき事項につき株主全員または種類株主全員の同意を要する場合(商業登記規則61条2項)
ex. 全部の株式の内容として取得条項付株式の定めを設ける場合(株主全員の同意を要する場合)や,種類株式の内容として取得条項付株式の定めを設ける場合(種類株主全員の同意を要する場合)が当たります。
これらに該当する場合,以下の株主リストを添付する必要があります。
・株主全員または種類株主全員について以下の事項を記載した株主リスト
①株主の氏名または名称
②住所
③株式の数(種類株式発行会社は,種類株式の種類および数)
④議決権の数
【平成28年11月25日追記】
株主全員または種類株主全員について上記の情報が要求されるのは,登記すべき事項につき株主全員または種類株主全員の同意を要する場合は,株主全員または種類株主全員がその事項についての結論を左右し得たからです。
下記2.と異なり,議決権の数の割合(下記2.⑤)の記載が要求されないのは,登記すべき事項につき株主全員または種類株主全員の同意を要する場合は,議決権の数の割合は関係ないからです。
【追記終わり】
2.登記すべき事項につき株主総会の決議または種類株主総会の決議を要する場合(商業登記規則61条3項)
株主総会の決議または種類株主総会の決議を要する場合ですから,非常に多くの登記が該当します。
これらに該当する場合,以下の株主リストを添付する必要があります。
・議決権の数上位10名の株主(※),または,議決権の割合が多い順に加算し議決権の割合が2/3に達するまでの株主または種類株主(※)について以下の事項を記載した株主リスト
①株主の氏名または名称
②住所
③株式の数(種類株式発行会社は,種類株式の種類および数)
④議決権の数
⑤議決権の数の割合
※株式会社の負担を考慮して,「上位10名」または「2/3」のうちいずれか少ない人数の株主リストで構わないとされました。上場企業も対象ですので,株主が何万人もいる場合もあります。その場合は,上位10名のリストを作成することになるでしょう。なお,この株主は,議決権を有しない株主(ex. 自己株式の株主)は除きますが,株主総会または種類株主総会に出席した株主に限られません。
【平成28年11月25日追記】
「上位10名」の要件は,公開会社においては,上位10名の株主の氏名などを事業報告に記載する必要があるため(会社法施行規119条3号,122条1号),それに合わせたものです。
「2/3」の要件は,株式会社において重大な事項については特別決議が必要とされていますので,特別決議の要件である「2/3」に合わせたものです。
【追記終わり】
株主リスト自体の記載例は,法務省の以下のウェブサイトで発表されています。
何通りも記載例がありますが,主要なものの直リンクを貼っておきます。
※いずれも,リンク先はPDFです。
1.登記すべき事項につき株主全員または種類株主全員の同意を要する場合(商業登記規則61条2項)
・登記すべき事項につき株主全員または種類株主全員の同意を要する場合の株主リスト(PDF)
2.登記すべき事項につき株主総会の決議または種類株主総会の決議を要する場合(商業登記規則61条3項)
・登記すべき事項につき株主総会の決議を要する場合において,議決権の数上位10名の株主の株主リスト(PDF)
・登記すべき事項につき株主総会の決議を要する場合において,議決権の割合が多い順に加算し議決権の割合が2/3に達するまでの株主の株主リスト(PDF)
株主リストの作成者
株主リストは代表者が作成し,代表者が登記所届出印で押印します(平28.6.23民商99)。
同一の申請書で株主総会の決議を要する複数の登記を申請する場合
記述は,このパターンになることがよくありますね。
同一の申請書で,株主総会の決議を要する複数の登記を申請する場合,原則としては,登記ごとに株主リストを作成する必要があります(平28.6.23民商98)。
ただし,決議ごとに株主リストに記載すべき内容が一致するときは,その旨の注記がされた株主リストが1通添付されていれば足ります(平28.6.23民商98)。
通常は「ただし,」以下に該当します。
申請書の記載方法
申請書にどう記載するかは,先日,法務省の以下のウェブサイトで発表されました。
※「【H28.9.1更新】」と記載されているものが該当します。
1.登記すべき事項につき株主全員または種類株主全員の同意を要する場合(商業登記規則61条2項)
「添付書面 株主の氏名又は名称,住所及び議決権等を証する書面(株主リスト) ○通」
「添付書面 株主の氏名又は名称,住所及び議決権数等を証する書面(株主リスト) ○通」【平成28年10月5日修正】
法務省が上記のとおり,記載例を変更しました(「議決権等」→「議決権数等」)。
下記2.の記載例と同じになりました。
2.登記すべき事項につき株主総会の決議または種類株主総会の決議を要する場合(商業登記規則61条3項)
「添付書面 株主の氏名又は名称,住所及び議決権数等を証する書面(株主リスト) ○通」
「株主リスト」だけじゃダメだったのかな……。
記述の記載量が増えましたね。
なお,上記1.と2の場合は,1文字異なります。
上記1.は「議決権等」となっているのに対して,上記2.は「議決権数等」となっています。
姫野先生のブログを読んでいて気づきました(最初に気づいたのは,LECさんの森山先生のようです)。【平成28年10月5日削除】
組織再編の場合の株主リストの作成者
■平成28年11月25日にこの項目を追記しました。
組織再編の場合,存続会社等の株主リストの作成者は存続会社等の代表者で問題ありませんが,消滅会社等の株主リストを誰が作成するかが問題となっていました。
組織再編によっては消滅会社等の代表者が登記申請をしない場合もありますし,消滅会社等が消滅する組織再編もあるからです。
この点につき,日本司法書士会連合会が法務省民事局商事課に照会し,平成28年11月,以下の回答がありました(NSR-3〔日司連ネット〕にアップされました)。
少し細かい知識ですので,余裕があれば拾ってください。
【株主リストの作成者】
判断基準
判断基準は,「その会社の登記を申請する者が作成する」ということです。
テキストで,組織再編の消滅会社等の申請人を確認してください。
下記の株主リストの作成者と一致していることがわかります。
■平成29年8月8日に表形式にしました。
消滅会社等 | 株主リストの作成者 |
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①株式会社が組織変更をする場合
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組織変更後の持分会社の代表者
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②吸収合併の場合の吸収合併消滅株式会社
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吸収合併存続会社の代表者
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③新設合併の場合の新設合併消滅株式会社
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新設合併設立会社の代表者
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④吸収分割の場合の吸収分割株式会社
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吸収分割株式会社の代表者
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⑤新設分割の場合の新設分割株式会社
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新設分割株式会社の代表者
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⑥株式交換の場合の株式交換完全子会社
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株式交換完全子会社の代表者
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⑦株式移転の場合の株式移転完全子会社
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株式移転完全子会社の代表者
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【追記終わり】
株主リストが必要となる法人
■平成29年2月25日にこの項目を追記しました。
株主リストが必要となることがある法人は,以下のとおりです。
・株式会社
・特例有限会社
・投資法人
・特定目的会社
*持分会社や一般社団法人・一般財団法人では,株主リスト(社員リスト,評議員リストなど)は不要です(一般社団法人等登記規則3条参照)。
試験的には,「株式会社」「特例有限会社」は必要となることがあることと,「持分会社」「一般社団法人・一般財団法人」は不要であることを押さえてください。
“株主”リストですから,株主がいる法人に要求されるということです。
特例有限会社の持主(法人の持主)は,「株主」です。
【追記終わり】
株主リストが要求されるか問題となる登記
■平成29年2月25日にこの項目を追記しました。
■平成29年12月11日に問題となる登記を追記しました。
*この項目では,商業登記規則61条3項の株主総会議事録の株主リストに絞って説明を記載しています。
株主リストが必要か問題となる登記があります。
「株主総会議事録を添付する場合は,株主リストを添付しておけばいい」という単純なものではありません。
「株主総会議事録を添付する場合は,株主リストを添付しておけばいい」は,明確な誤りですのでご注意ください。
まず,株主リストは,「株主総会……の決議を要する場合」(商業登記規則61条3項)に要求されます。
「株主総会の決議は要しないが,株主総会議事録を添付する場合」も存在します。
以下の問題となる登記でご確認ください。
基本的な判断基準
株主リストを添付するかの基本的な判断基準は,株主総会の決議を要する場合に添付するです。
ただし,株主総会の決議を要する場合でも,以下の場合には株主リストを添付する必要はありません。
①登記すべき事項との関係が間接的(直接に登記すべき事項について決議しているわけではない)
②決議の有効性を審査する必要性が低い
・取締役の選解任権付種類株式の種類株主総会で取締役を解任した場合の選任についての種類株主総会議事録
→株主リストの添付は「不要」であると解されています(登研832P15~16)。
取締役の選解任権付種類株式(会社法108条1項9号)の種類株主総会で取締役を解任した場合,解任した種類株主総会議事録だけでなく,選任した種類株主総会議事録も添付する必要があります(平14.12.27民商3239)。
選解任機関の基本的な考え方は,「選解任機関は同一である」です。
よって,この場合は,選任した種類株主総会で解任します。
そこで,その種類株主総会が取締役の解任権を有するかどうかを確認するため,選任した種類株主総会議事録の添付が求められます。
しかし,選任した種類株主総会で解任したわけではありません。
上記のとおり,解任権を証するために添付しているのであって,選任した種類株主総会の決議は間接的なものです(上記の「基本的な判断基準①」)。
また,取締役の就任登記の際に種類株主総会の適法性について審査していますので,再度審査する必要性は低いです(上記の「基本的な判断基準②」)。
・非公開会社が第三者割当ての方法によって募集株式の発行等を行う場合に募集事項の決定を株主総会で取締役または取締役会に委任したときの株主総会の決議
→株主リストの添付は「必要」であると解されています(登研832P8~9)。
非公開会社の第三者割当ての募集事項の決定機関は株主総会(特別決議)ですが,株主総会の決議(特別決議)で取締役または取締役会に委任できます(会社法200条1項)。
この場合,委任を決議した株主総会議事録および募集事項を決定した取締役の過半数の一致を証する書面または取締役会議事録を添付しますが,この株主総会議事録について株主リストが必要です。
株主総会で決議しているからです(上記の「基本的な判断基準」)。
・新株予約権の行使の登記における資本金として計上しない額(資本準備金として計上する額)を定めた株主総会
→株主リストの添付は「不要」であると解されています(登研832P17~18)。
新株予約権の行使の際の資本金の額の計上において,新株予約権の発行時に資本金として計上しない額(資本準備金として計上する額)を定めている場合,その額は資本金として計上しません(資本準備金として計上します)。
そこで,新株予約権の行使の登記を申請する場合に,資本金として計上しない額(資本準備金として計上する額)があるときは,それを定めた株主総会議事録など(ex. 数年前の議事録)を添付します。
しかし,資本金として計上しない額(資本準備金として計上する額)を定めた株主総会が適法に行われたかについては,新株予約権の発行の登記の申請の際にすでに審査されています。
再度審査する必要性は低いため,株主リストは不要であると解されています(上記の「基本的な判断基準②」)。
姫野先生のブログによると,東京法務局の管轄内でも不要であるという扱いになっているようです。
・役員の任期満了による退任
→株主リストの添付は「不要」であると解されています。
役員が定時株主総会で再選されず,定時株主総会の終結時に任期満了で退任する場合,退任を証する書面として株主総会議事録(定時株主総会の議事録)を添付します。
しかし,株主総会で役員の退任について決議をしているわけではありません(上記の「基本的な判断基準」)。
・会計監査人を再任しない決議
→株主リストの添付は「不要」であると解されています(登研832P12~13)。
会計監査人は,定時株主総会において再任しない旨の決議がされた場合は,退任します(会社法338条2項「別段の決議」)。
この決議に基づいて会計監査人の退任の登記を申請する場合,株主総会議事録(定時株主総会の議事録)を添付しますが,株主リストは不要です。
たしかに,再任しない決議をしています。
しかし,退任の効力は,定時株主総会が終結したことによって生じます。
再任しない決議は,間接的なものなのです(上記の「基本的な判断基準①」)。
この株主総会議事録は,会計監査人が再任されていないことと退任の年月日を証するために添付しています。
・会計監査人のみなし再任
→株主リストの添付は「不要」であると解されています(法務省のWebサイト。登研832P11~12)。
会計監査人は,選任後1年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会において別段の決議がされなかったときは,その定時株主総会において再任されたものとみなされます(いわゆる「みなし再任」。会社法338条2項)。
このみなし再任に基づいて会計監査人の重任登記を申請する場合,株主総会議事録(定時株主総会の議事録)を添付しますが,株主リストは不要です。
株主総会で会計監査人について決議をしているわけではないからです(上記の「基本的な判断基準」)。
この株主総会議事録は,重任の年月日を証明するために添付しています。
この点は,法務省のWebサイト(株主リストに関するよくあるご質問Q6)にも明記されています。
・清算結了の登記における決算報告の承認
→株主リストの添付は「必要」であると解されています(登研832P3)。
株式会社の清算結了の登記において,決算報告の承認があったことを証する書面として株主総会議事録を添付します。
この株主総会議事録について,株主リストが不要であるという見解もあるようです。
・株主リスト(山本浩司の雑談室2)
「決議」と「承認」が異なるという理由のようです。
しかし,私は,講義で「株主リストは必要であると解されます」と説明しています。
「承認」も「決議」に含まれると考えられるからです。
法務省の記載例(株式会社清算結了登記申請書〔PDF〕)でも,株主リストの記載があります。
【追記終わり】
※近年の司法書士試験の法改正・最新判例などは,以下の記事にまとめています。
松本 雅典