合否を分けるBランクの問題から合格のために何をすればいいかがわかります

平成30年度(2018年度)司法書士試験

1年中,「過去問だけでは合格できない」「この市販テキストは情報量が少なすぎる」「答練・模試の未出の知識を拾う必要がある」など色々なことがいわれます。

本試験から離れれば離れるほど,こういったことを聞いて不安になってしまうので,合格に何が必要なのか最高の検証物があるこの時期に,一緒に検証してみましょう。

 

 

今年度の午前択一の民法を題材にします。

 

午前択一の問題のランクの内訳は以下のとおりでした。

 

 

・Aランク(正答率70%以上)      :21問

・Bランク(正答率70%未満~40%以上):12問

・Cランク(正答率40%未満)      :2問

 

 

Bランクの8割くらいまで正解できると,十分な上乗せ点が取れるので,Bランクがどれくらいできるかが1つの合否の分水嶺といえます。

それでは,民法のBランクの問題を正解するのに必要な肢(*)をみていきます(民法はAランク:13問,Bランク:7問です)。

*以下の肢以外から正解することができる問題もありますが,一般的に使うと思われる肢を記載します。

 

 

第7問(物権的請求権)Bランク

ア Aの所有する甲土地の上にBが無権原で自己所有の乙建物を建てた後,乙建物につきBの妻であるCの承諾を得てC名義で所有権の保存の登記がされたときは,Aは,Cに対し,甲土地の所有権に基づき,建物収去土地明渡しを請求することができない。

エ Aの所有する甲土地から,Bの所有する乙土地に土砂が流れ込むおそれがある場合には,Aが自己の行為の責任を弁識する能力を欠く状態にあっても,Bは,Aに対し,乙土地の所有権に基づき,予防措置を請求することができる。

 

2 アエ(正解)

 

 

いずれも過去問知識です(ア:26-7-ア,18-11-エ,エ:24-8-1)。

どのテキストにも掲載されています。

しかし,アを判断できなかった方が多かったです。

アを判断できるかで,真に基礎が身についているかがわかります。

よって,アだけを解説した動画を用意しました。

スマホの容量制限に優しい5分間の動画にしました。

 

 

 

 

 

第13問(留置権)Bランク

ア 留置権者は,留置物の所有者である債務者の承諾を得て留置物を第三者に賃貸した場合には,その賃料を被担保債権の弁済に充当することができる。

イ 留置権者が留置物の所有者である債務者の承諾を得ないで留置物に質権を設定した場合には,債務者は,留置権者に対し,留置権の消滅を請求することができる。

 

1 アイ(正解)

 

 

アは,過去問知識です(25-11-ウ,3-3-1,19-11-ウ,14-10-エ,3-10-1)。

イは,直接ではありませんが,かなり近い知識が過去問で出題されています(25-11-ア,16-12-イ,60-22-3,60-22-4)。

どちらも,どのテキストにも掲載されています。

 

 

 

第15問(譲渡担保権)Bランク

イ Bは,Aに対する譲渡担保権設定後,通常の営業の一環として,Cに対して,甲倉庫内にある鋼材の一部を売却し,Cの管理する乙倉庫に搬入した。この場合において,Bが貸金債務の弁済期を徒過していたときであっても,Aは,乙倉庫に搬入された鋼材について譲渡担保権を実行することができない。

ウ 甲倉庫内にある全ての鋼材は,BがCから買い受けたものであるが,Bはその代金をCに支払っていなかった。この場合において,Cが動産売買の先取特権に基づいて,甲倉庫内にある鋼材の競売の申立てをしたときは,Aは,譲渡担保権を主張して,当該競売手続の不許を求めることができない。

 

3 イウ  4 イエ(正解)

 

 

いずれも過去問知識です(イ:23-15-エ,ウ:23-15-オ)。

どのテキストにも掲載されています。

 

 

 

第16問(詐害行為取消権)Bランク

ウ 詐害行為の受益者が債権者を害すべき事実について悪意である場合において,転得者が善意であるときは,転得者に対して詐害行為取消権を行使することはできない。

エ 債権者が受益者に対して詐害行為取消権を行使し,詐害行為を取り消す旨の認容判決が確定した場合であっても,債務者は,受益者に対して,当該詐害行為が取り消されたことを前提とする請求をすることはできない。

 

4 ウエ(正解)

 

 

いずれも過去問知識ではありません。

ただ,どのテキストにも掲載されている知識です。

 

 

 

第17問(弁済)Bランク

ア 金銭債権について,外国の通貨で債権額を指定したときは,債務者は,履行地における為替相場により,日本の通貨で弁済をすることができる。

ウ 債権の目的が特定物の引渡しである場合において,別段の意思表示がないときは,弁済をする者は,債権発生の時の現状でその物を引き渡さなければならない。

エ 弁済をすべき場所について別段の意思表示がないときは,特定物の引渡しは,引渡しをすべき時にその物が存在する場所において,しなければならない。

 

1 アウ  5 ウエ(正解)

 

 

ア・ウは過去問知識です(ア:2-3-ウ,ウ:2-3-オ)。

ア・ウ・エはどのテキストにも掲載されています。

しかし,アまたはエを判断できなかった方が多かったです。

 

 

 

第19問(委任契約・請負契約)Bランク

委任契約又は請負契約に関する次のアからオまでの記述のうち,「この契約」が委任契約である場合にのみ正しいこととなるものの組合せは,後記1から5までのうち,どれか。

ウ この契約は,有償契約のものも,無償契約のものもある。

エ この契約の当事者の一方による解除は,将来に向かってのみその効力を生ずる。

オ この契約は,当事者のいずれかが後見開始の審判を受けた場合には,終了する。

 

4 ウエ(正解)  5 ウオ

 

 

いずれも過去問知識のみで判断することはできません(ウの委任は16-19-エ,5-7-オ,57-6-1,オの委任は午後21-15-ウ,62-15-3,57-6-3で出題されていますが)。

ただ,どのテキストにも掲載されている知識です。

しかし,エまたはオを判断できなかった方が多かったです。

エは,出題実績がないためだと思います。

オは,「いずれか」について,「受任者については当たるから委任については正しい」と誤読した方が多かったようです。

 

 

 

第23問(相続人不存在)Bランク

4 相続財産全部の包括受遺者のあることが明らかである場合には,相続財産法人は,成立しない。(正解)

 

 

過去問知識ではありません。

掲載されていないテキストも多いですが,『リアリスティック不動産登記法Ⅰ』には掲載されています。

 

 

(『リアリスティック不動産登記法Ⅰ』P290より一部抜粋)

 

 

「私のテキストには記載されていないが,『包括受遺者は,相続人と同一の権利義務を有する』(民法990条)という基本知識から推理できる」と主張する講師もいるでしょう。

しかし,それは無理があります。

常に「包括受遺者=相続人」となるわけではありません。

ex. 包括受遺者は,相続人と異なり,所有権の保存の登記の申請適格者ではありません(登研223P67)。

 

これは知識(最判平9.9.12)がないと無理です。

 

同じような問題が,第35問の場屋営業の責任です(これもBランクです)。

商法の出題が復活した平成21年度以降で,2回も商行為各論から出題されているので(22-35〔問屋と商事仲立人〕,23-35〔商事売買〕),場屋営業の責任は出題可能性が十分ありました。

私は,本試験出題予想会で予想論点にしていたくらいです。

もちろん,テキストに掲載し,講義でも説明しています(オ以外)。

 

 

 

以上,民法のBランクの問題をみてきました。

これで,以下のことがおわかりいただけたと思います。

 

・基礎講座でも扱う基本知識が合否の分かれ目になった

・第23問の相続人不存在と第35問の場屋営業の責任を扱っていない講座とテキストは,少し情報量が少ない

 

 

 

松本 雅典

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