新設された「刑の一部執行猶予」の概要を記載します。
改正日・施行日
平成25年6月13日改正
平成25年6月19日公布
平成28年6月1日施行
よって,平成29年度以降の試験範囲です。
執行猶予自体が,近年ずっとAランクです。
平成6年度(第24問),平成16年度(第25問)と出題されていますので,どの講座でも近年は「そろそろ出る」と説明されているはずです。
平成29年度に,いきなり刑の一部執行猶予まで聞いてくるかはわかりません。
刑の全部執行猶予しか聞かないかもしれません。
しかし,執行猶予自体がAランクですので,刑の一部執行猶予も押さえるべきです。
【2018年3月19日追記】平成29年度に,執行猶予の出題はありませんでした。よって,平成30年度もAランクです。
【2019年2月27日追記】平成30年度も,執行猶予の出題はありませんでした。よって,2019年度もAランクです。
【2020年2月10日追記】令和元年度も,執行猶予の出題はありませんでした。よって,2020年度もAランクです。
条文
新設された条文は,改正刑法27条の2~27条の7ですが,この記事では,最も重要な改正刑法27条の2第1項と第2項をみていきます。
改正刑法27条の2(刑の一部の執行猶予)
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1 次に掲げる者が三年以下の懲役又は禁錮の言渡しを受けた場合において,犯情の軽重及び犯人の境遇その他の情状を考慮して,再び犯罪をすることを防ぐために必要であり,かつ,相当であると認められるときは,一年以上五年以下の期間,その刑の一部の執行を猶予することができる。
一 前に禁錮以上の刑に処せられたことがない者
二 前に禁錮以上の刑に処せられたことがあっても,その刑の全部の執行を猶予された者
三 前に禁錮以上の刑に処せられたことがあっても,その執行を終わった日又はその執行の免除を得た日から五年以内に禁錮以上の刑に処せられたことがない者
2 前項の規定によりその一部の執行を猶予された刑については,そのうち執行が猶予されなかった部分の期間を執行し,当該部分の期間の執行を終わった日又はその執行を受けることがなくなった日から,その猶予の期間を起算する。
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刑の一部執行猶予が改正刑法27条の2~27条の7で新設されましたが,改正前から存在した執行猶予は基本的には変更はありません。
ただし,刑の一部執行猶予と区別するため,「刑の全部執行猶予」(条文上は「刑の全部の執行猶予」と呼ばれることになりました(改正刑法25条~27条)。
意義
改正前までは,刑罰を科す場合は以下の2択でした。
1.執行猶予をしない(懲役なら刑務所に入れ!)
2.刑の全部の執行を猶予する(懲役なら刑務所に入らなくていいよ)
ここに,新たな選択肢として,刑の一部執行猶予ができました(改正刑法27条の2第1項,第2項)。
3.刑の一部の執行を猶予する(刑の一部は刑務所に入ってね。刑の残りは猶予してあげるから途中から出してあげるよ)
ex. 懲役3年の刑を言い渡す場合に,「2年は懲役刑を執行する(刑務所に入れ!)。残りの1年は懲役刑の執行を5年間猶予する。」といったことができます。
制度趣旨
この制度のねらいは,再犯防止です。
再犯防止に有効とされているのが保護観察です。
しかし,保護観察は刑期が満了すると付すことができません。
上記1.の「執行猶予をしない(刑務所に入れ!)」としてしまうと,刑務所から出た後に保護観察に付せないんです。
そのため,刑務所から出てすぐに再犯を犯してしまう人が多いです。
一部執行猶予であれば,猶予の期間中,保護観察に付することができます(刑法27条の3第1項)。
刑法(刑法典)上は任意となっていますが(改正刑法27条の3第1項),実際には保護観察に付すだろうといわれています。
上記ex.であれば,2年経過して刑務所から出た後に,保護観察に付せるのです。
よって,再犯防止につながることが期待されています。
簡単にいうと,「まったく執行猶予をせず,刑務所から出たら野放し」よりも,「少し早めに刑務所から出して,出した後も監督する」ほうがいい場合もあるだろうということです。
要件
刑の全部執行猶予も同じですが,執行猶予を付けられるかは,「過去要件」と「今回要件」を考えます(←私の勝手なネーミングです)。
【過去要件】
過去の犯罪歴が問題となります。
以下のいずれかに当たる者である必要があります。
①前に禁錮以上の刑に処せられたことがない者(いわゆる初犯。改正刑法27条の2第1項1号)
②前に禁錮以上の刑に処せられたことがあっても,その刑の全部の執行を猶予された者(改正刑法27条の2第1項2号)
③前に禁錮以上の刑に処せられたことがあっても,その執行を終わった日またはその執行の免除を得た日から5年以内に禁錮以上の刑に処せられたことがない者(改正刑法27条の2第1項3号)
①③は,初度の刑の全部執行猶予(改正刑法25条1項1号,2号)と同じです。
それに,②が加わっています。
【今回要件】
今回言い渡す刑についての要件です。
1.3年以下の懲役または禁錮の言渡しを受けたこと(改正刑法27条の2第1項柱書)
初度の刑の全部執行猶予(改正刑法25条1項柱書)と異なり,「罰金」が入っていません。
罰金は,上記の「制度趣旨」にそぐわないからです。
「3年以下」の思い出し方
この「3年以下」は,初度の刑の全部執行猶予(刑法25条1項柱書)の今回要件でも同じです。
前記のex.は,言い渡す刑が3年なので,ギリギリOKです。
司法書士試験の執行猶予の問題は,このような数字を記憶していないと解けない問題が多いです。
そこで,ここでは,ゴロ合わせなどを使うのが有効です。
「3年以下」についての私の思い出し方は,被告人は「『世(4)が恐い!』と思っている」です。
日本は,起訴されるとほとんど有罪になりますから,刑事裁判で大きなポイントになるのは「執行猶予がつくか」です。
「被告人を懲役4年に処する。」といわれたら,刑務所に入ることになってしまいます。
そこで,被告人は,「『よ』くるな。『よ』くるな。」と思っています(「5年」「6年」「3年6か月」などもダメですが……,記憶のために「『よ』くるな」としています)。
2.犯情の軽重および犯人の境遇その他の情状を考慮して,再び犯罪をすることを防ぐために必要であり,かつ,相当であると認められること(改正刑法27条の2第1項柱書)
「必要」性と「相当」性の判断においては,更生プログラムが効果があるかや本人が更生プログラムを受ける意思があるかなどから判断されるといわれています。
一部執行猶予の期間は,1年以上5年以下です。
前記のex.は,最も長い5年としました。
薬物使用等の罪を犯した者に対する刑の一部の執行猶予に関する法律
刑の一部執行猶予の改正に合わせ,「薬物使用等の罪を犯した者に対する刑の一部の執行猶予に関する法律」という刑法の特別法が制定され,平成28年6月1日に同時に施行されています。
薬物事件では,必ず保護観察が付されるなどの特則が定められています(同法4条1項)。
刑法の学者本では,刑の一部執行猶予の刑法典の説明の際,この特別法の説明も合わせて記載しているのが普通です。
よって,私の基礎講座のテキストにも載せていますが,参考程度です。
※近年の司法書士試験の法改正・最新判例などは,以下の記事にまとめています。
松本 雅典