見落としがちな債権法の改正点――弁済期前に弁済する場合の弁済期までの利息の支払の要否

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債権法改正・相続法改正のわかりやすい改正点はよいのですが,見落としがちな改正点もかなりあります。

1つ例を挙げます。

 

 

【旧民法における帰結】

利息が発生する旨の約定のある金銭消費貸借をした債務者は,弁済期の前に返済する場合でも,弁済期までの利息も支払う必要がある

貸した債権者のほうにも,弁済期までの利息をもらえる期限の利益があるので,それを害してはならないため。

 

この根拠は,民法136条2項ただし書でした。

 

民法136条(期限の利益及びその放棄)

2 期限の利益は,放棄することができる。ただし,これによって相手方の利益を害することはできない。

 

この条文は,変わっていません。

しかし,上記の【旧民法における帰結】は,変わります。

 

 

【新民法における帰結】

利息が発生する旨の約定のある金銭消費貸借をした債務者が弁済期の前に返済する場合に弁済期までの利息も支払う必要があるかは,事案ごとの解釈による

 

以下の規定が新設されたからです。

 

新民法591条(返還の時期)

3 当事者が返還の時期を定めた場合において,貸主は,借主がその時期の前に返還をしたことによって損害を受けたときは,借主に対し,その賠償を請求することができる。

 

債権者は,弁済期前に弁済してもらえるので,返済時から返済金を運用できます。

そこで,弁済期までの利息までもらえると,二重の利益になるともいえます。

よって,「損害を受けたときは……賠償を請求することができる」とし(新民法591条3項),事案ごとの解釈によることにしたんです。

たとえば,債権者が債務者に貸す金銭の調達に多額のコストをかけていた場合には,「損害を受けた」といえると考えられます。

 

 

■供託法への影響

この改正は,供託法にも影響があります。

供託法に,以下の先例があります。

 

昭39.2.3民四.43

利息及び弁済期の定めのある金銭消費貸借の債務者が期限の利益を放棄して弁済をする場合において,借用金額及び弁済期までの利息を提供しなければ,受領拒否を理由とする弁済供託をすることはできない。

 

この先例の扱いも考えないといけません。

 

 

■参考

 

(債権法改正・相続法改正完全対応版『リアリスティック民法Ⅲ』P256)

 

 

 

 

松本 雅典

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