あえてこの時期に読んでほしい「法学」―法とは何か?

法学(全体構造)

司法書士試験の試験科目に「(基礎)法学」はありませんが,「法学」について何回かに分けて記載したいと思います。

目次

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法学について説明する趣旨

民事訴訟法や刑法の理解の助けとなるかと思ったので,書くことにしました。
法学自体の知識を記憶していただく趣旨ではありません。
また,上記の趣旨であるため,決して網羅的な説明でない点はご了承ください。
記憶しようとはせず,理解する姿勢でお読みください。

「法学」とは?

民法や会社法など特定の科目の話ではなく,「法とは何か?」という全体の話です。
「法とは何のためにあるのか?」から始まり,法の分類(ex.「実体法と手続法」)など法全体に関する話です。
では,内容に入って行きましょう。

「法」とは何か?

結論から申し上げると,「法」とは「国家権力によって強制的な実現が可能であるルール」と定義することができます。
たとえば,刑法199条には,以下のルールが記載されています。

刑法199条(殺人)
人を殺した者は,死刑又は無期若しくは5年以上の懲役に処する。

人を殺すと,「死刑」「無期懲役」「5年以上の懲役」のいずれかになると記載されています。
しかし,このルールがただあるだけでは意味がありません。
実際に人を殺した人がいた場合,国家権力によって強制的に「死刑」「無期懲役」「5年以上の懲役」のいずれかを実現することが可能であって初めて法といえるのです。
日本には刑事訴訟法があり,国家権力による「捜査 → 起訴 → 裁判」という手続を踏むことにより,「死刑」「無期懲役」「5年以上の懲役」が実現されることになっており,実際に実現されています。

これは,民事においても同様です。
たとえば,民法587条には,以下のルールが記載されています。

民法587条(消費貸借)
消費貸借は当事者の一方が種類品質及び数量の同じ物をもって返還をすることを約して相手方から金銭その他の物を受け取ることによってその効力を生ずる。

民法587条は消費貸借契約の成立要件を定め,条文には明確に書かれていませんが(ここが法律学習のメンドーなところですが),貸主には弁済期になると返還請求権が発生することが規定されています。
これも,このルールがただあるだけでは意味がありません。
日本には民事訴訟法や民事執行法がありますので,実際に借主が弁済期に借金を返さなければ,貸主は国家権力の力を借りることができます。
貸主は,裁判所に民事訴訟を提起し,借主に貸金の返還を命ずる判決を取り,(借主がそれでも自分から払わなければ)裁判所の手続で借主の財産を強制的に売っぱらったりすることで貸した金を回収することができます。
このように,裁判所という国家権力を使い,実現できるのです。
逆にいえば,裁判所を利用する(国家権力を使い自身の権利を実現する)民事訴訟においては,「法的根拠」が必要となります。

たとえば,伊藤塾さんの山村先生が松本に,「松本はイマイチフェイスだから,私に1000万円を支払え」という訴えを提起しても,それは認められません。
「イマイチフェイスであるために,これまで悲しい人生を歩んできた松本に,イケメンの山村先生が1000万円を請求するなんて,あまりにも松本がかわいそうだから」……という理由ではなく,法的根拠がないとダメだからです。
法的根拠に基づかずに判決を出してしまうことは,後進国の裁判所では実際にありますが,本来は許されるものではありません。
みなさんは,民事訴訟法の学習の最初に「請求」について学んだと思います。
請求は,簡単にいうと,原告が判決主文に書いてもらいたいと考えているものです。
ex.「被告は,原告に対して,金1000万円を支払え」
裁判をテニスに例えると,サーバー(原告)が打ち込む「ボール」が請求に当たります。
サーバー(原告)が打ち込んだボール(請求)が本当にあるのかを審理するのが民事訴訟なわけです。
そして, ボール(請求)があるかどうかの判断にあたっては,法的根拠が必要となります。
 
民事訴訟法の講義で説明される以下のピラミッドでいえば,「請求」が1に,「法的根拠」が2に当たります。

150218民訴の4段階構造

  

※講師によって,多少ピラミッドの作り方が異なるので,みなさんの手元にある教材と異なるかもしれません。また,3段階で表現する場合もあります。
 
1の「請求」について考えるときは,必ず2の「法的根拠」があるかを考える必要があります。
一般のお客様は,「あいつは本当に最低の奴だから,オレに金を払わないといけない」などとおっしゃることもありますが,「最低の奴だから」とか「松本はイマイチフェイスだから」とかでは,ダメなのです。
法的根拠が必要です。
それを常に意識してください。
その後,3の事実レベル(主要事実・要件事実のレベル),4の証拠レベルの話となるのですが,それはまた後日。
 
「法とは何か?」という,試験とは一見関係なさそうな問が,実は民事訴訟法の講義で説明を受けた4段階構造(思考)につながっていくわけです。

 
 
 
松本 雅典
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