相続法改正(民法改正)のポイント【2018年7月6日成立】

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相続法の改正案が2018年の通常国会に提出されています。

まだ成立はしていませんが,ポイントをまとめておきます。

【2018年7月6日追記】2018年7月6日成立しました。

 

 

目次

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改正日・公布日・施行日(スケジュール)

まだ改正案は成立していません。

【2018年7月6日追記】2018年7月6日成立しました。

【2018年8月3日追記】2018年7月13日公布されました。

 

施行日は,基本的には,公布の日から起算して1年以内とされています。【2018年11月21日追記】2019年7月1日施行で確定(2018年11月21日政令〔※〕)

官報(PDF)

 

ただ,以下の例外もあります。

 

・自筆証書遺言の要件の緩和

 → 公布の日から起算して6か月を経過した日に施行(2018年7月13日に公布されましたので2019年1月13日に施行されます)

 

・配偶者居住権・配偶者短期居住権

 → 公布の日から起算して2年以内に施行【2018年11月21日追記】2020年4月1日施行で確定(2018年11月21日政令〔※〕)

官報(PDF)

 

・債権法改正の影響のある規定

 → 債権法改正の施行日(2020年4月1日)に施行

 

 

条文

改正案は,以下からご覧いただけます。

 

新旧対照条文(PDF)

民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律案〔法務省〕)

 

 

改正の趣旨

■相続と登記・遺産分割・自筆証書遺言・遺言執行者・遺留分・特別寄与者(新設)

ザックリいうと,相続での実務上の問題をできる限り減らす改正がされます。

解釈の明文化がされる点もけっこうあります。

1つ1つの改正の趣旨は,下記の主な改正項目で説明します。

 

■配偶者居住権(新設)・配偶者短期居住権(新設)

進む高齢化社会に対応するため,被相続人の高齢である配偶者の住まいを確保する必要があります。

配偶者の住まいを確保するための法定債権を2つ新設します。

 

 

主な改正項目

*改正案の条文を「新民法」と表記します。

 

相続と登記

■以下の2つの権利の承継について,登記などを備えなければ第三者に対抗できなくなります(新民法899条の2)

 

①遺言による指定相続分(法定相続分を超える部分のみ)

判例(最判平5.7.19。『リアリスティック民法Ⅱ』P29)と異なる扱いとなります。

 

②相続させる旨の遺言(遺産分割の方法の指定)

判例(最判平14.6.10。『リアリスティック民法Ⅱ』P41)と異なる扱いとなります。

 

上記①②は,いずれも遺言に基づくものです。

遺言で,対抗要件が不要な状態を作り出せるのはおかしいです。

また,遺言に基づく権利の承継は,意思表示による移転といえます。

よって,対抗要件を要求してもおかしいものではありません。

 

法定相続分に対応する部分について対抗要件が不要である判例(最判昭38.2.22。『リアリスティック民法Ⅱ』P29)の扱いに変更はありません。

 

 

遺産分割

■遺産分割前に相続財産が処分された場合であっても,相続人全員の同意で,処分された財産も含めた遺産分割をすることができるとする規定が置かれます(新民法906条の2)

一般的な解釈(最判昭54.2.22など参照)の明文化です。

実務でも行われています。

処分された遺産を遺産分割の対象とできないとすると,処分した相続人が不公平な利益を得てしまいます。

 

■遺産の一部の分割もできる規定が置かれます(新民法907条)

実務で行われていることの明文化です。

争いのない遺産についてのみ遺産分割をしてしまったほうが相続人が早く遺産を取得できるので,便利な場合があります。

 

■遺産分割前に預貯金債権の一部を行使できる規定(仮払い制度)が置かれます(新民法909条の2)

現状,原則として遺産分割協議が調わないと,預貯金の引出しができません。

しかし,100万円単位の葬儀代や当面の生活費など,遺産分割を待っていられないこともあります。

そこで,以下の額は,相続人が単独で引き出せるようになります。

 

預貯金債権(*)×1/3×法定相続分

*金融機関ごとに判断

ただし,法務省令で定める額(100万円程度になる?)が限度です。

 

→(2018/9/29追記)「150万円」でパブリックコメントが出ました。

「民法第九百九条の二に規定する法務省令で定める額を定める省令案」に関する意見募集

 

【2018年11月21日追記】150万円で確定(2018年11月21日法務省令〔※〕)

官報(PDF)

 

 

自筆証書遺言

■相続財産の目録については自書が不要となります(新民法968条2項)

現行法では,自筆証書遺言のすべてを自書する必要があります(民法968条1項。『リアリスティック民法Ⅲ』P492)。

遺言は徐々に増えてきており,自筆証書遺言を使いやすいものにする必要があります。

しかし,不動産の表示などを正確に書くのは大変です。

金融機関の方でも,間違いがあると困るので,司法書士に記載を任せることがあります。

そこで,相続財産の目録については自書が不要となります。

 

もうちょっと自書要件を緩和してもいいような……。

 

この自筆証書遺言の要件の緩和は,2019年度の出題範囲となることが確定していますので,詳しい解説記事を別に書きました。

 

 

なお,民法ではなく「法務局における遺言書の保管等に関する法律」(法務省)という別法律ですが,自筆証書遺言を法務局で保管してもらえる制度もできます。

この別法律の施行日は,公布の日から起算して2年以内です。

 

 

遺言執行者

■遺言執行者の地位と権限が明記されます(新民法1012条,1015条)

たとえば,以下のような規定です。

 

「遺言執行者がある場合には,遺贈の履行は,遺言執行者のみが行うことができる」(新民法1012条2項)

「遺言執行者がその権限内において遺言執行者であることを示してした行為は,相続人に対して直接にその効力を生ずる」(新民法1015条)

 

■遺言執行者がいる場合に相続人が遺言の執行を妨げるべき行為をしたときに,善意の第三者を保護する規定が新設されます(新民法1013条2項)

現行法では,遺言執行者がいる場合に相続人が遺言の執行を妨げるべき行為をしたとき,その行為は絶対的に無効とされ,第三者は保護されません(大判昭5.6.16。『リアリスティック民法Ⅲ』P515)。

第三者の保護規定がないからです。

 

改正により,「善意の第三者に対抗することができない」という保護規定(新民法1013条2項ただし書)が置かれます。

遺言執行者がいるかどうかは,第三者にはわからないです。

にもかかわらず,「遺言執行者がいたら第三者は無条件で泣いてね」という現行法の扱いはおかしいです。

 

 

遺留分

■遺留分権利者が遺留分の侵害を受けた場合にする請求が金銭の支払請求となります(新民法1046条1項)

これが,遺留分の改正の中で最も大事です。

 

現行法では,たとえば,不動産の贈与の一部が遺留分を侵害している場合,遺留分権利者が遺留分減殺請求をすると,遺留分権利者と遺留分減殺請求を受けた者が不動産を共有するのが原則です(『リアリスティック民法Ⅲ』P521)。

その後は,共有物分割で解決することになります。

まあ,うまく解決できないですよね……。

 

そこで,金銭の支払で解決することとしました。

 

■死亡前にされた相続人への贈与(特別受益)のうち遺留分額の算定の対象となるものを死亡前10年間にされたものに限定する(新民法1046条1項)(新民法1044条3項)2018/7/14訂正

現行法では,相続人への贈与(特別受益)については,「死亡前○年にされた」という限定がありません(『リアリスティック民法Ⅲ』P526)。

相続人への贈与(特別受益)なら,何十年も前にされた贈与も遺留分額の算定の対象となるわけです。

 

しかし,「遺留分を主張されないように死亡ギリギリに生前贈与するということを防ぐ」という趣旨からすると,いくら相続人への贈与(特別受益)でも何十年も前にされた贈与も入れるのはおかしいです。

そこで,死亡前10年間に限定します。

 

 

特別寄与者(新設)

■相続人ではない親族が無償の療養看護や労務の提供をした場合に,相続人に金銭の支払を請求できるようにする(新民法1050条)

たとえば,(今の時代でもこういう言い方をするのは不適切ですが,イメージしやすいので敢えて使いますが)いわゆるお嫁さんは,義理の親の介護などをしても,相続分はもちろん,寄与分さえも認められません(『リアリスティック民法Ⅲ』P464)。

 

しかし,それはあまりに不公平です。

被相続人が遺贈すれば財産を得られますが,遺贈してくれるとは限りませんし,「遺贈してくれ」とは言いづらい場合が多いです。

そこで,特別寄与者とし,金銭の支払の請求ができるようになります。

 

 

配偶者居住権(新設)

■「配偶者居住権」とは,被相続人の配偶者が相続開始の時に居住していた建物を自身の死亡まで無償で使用収益できる権利です(新民法1028条,1030条)

今回の改正の目玉です。

遺贈,遺産分割,家庭裁判所による遺産分割の審判によって,被相続人の配偶者が取得する法定債権です(新民法1028条1項,1029条)。

 

高齢化社会ですので,被相続人の配偶者も高齢である場合が多いです。

高齢で,住み慣れた住まいを離れるのは,肉体的にも精神的にも大変です。

そこで,相続開始の時に居住していた建物を死亡まで無償で使用収益ができるとされた権利が,この配偶者居住権です。

 

配偶者居住権は,登記もします(新民法1031条)。

不動産登記法にも規定が置かれます(新不登法3条9号,81条の2)。

申請情報がどうなるかは定かではありませんが,賃借権の設定の登記などに近いものになると推測されます。

『リアリスティック不動産登記法Ⅱ』の賃借権の登記の後に掲載すると思います。

 

 

配偶者短期居住権(新設)

■「配偶者短期居住権」とは,被相続人の配偶者が相続開始の時に無償で居住していた建物に,最低6か月間無償で使用できる権利です(新民法1037条)

相続開始後の短期間の住まいの確保のための法定債権です。

やはり高齢の配偶者の住まいの確保のために設けられます。

 

配偶者短期居住権は,登記しません。

 

 

 

……とみてきましたが,受験生の方が気になるのは「どれくらいの規模の改正なの?」ということだと思います。

表現が難しいですが,司法書士試験に与える影響は平成26年の会社法の改正くらいといえると思います。

 

 

 

相続法の改正も含めた民法の3つの改正(債権法・相続法・成人年齢)については,以下の公開講座でお話しています。

 

 

『改正対策のプロが語る!民法の3つの改正(債権法・相続法・成人年齢)の概要と試験への影響―知らなければ不安が募るだけ→いま知る!―』

*公開講座内で使用しているレジュメはこちら(PDF)からご覧いただけます。

 

 

*相続法の改正については,0:00~9:08と38:32~56:20でお話しています。

 

 

 

相続法の改正についての書籍はあまりなく,現時点では以下のものくらいです。

 

 

 

誤植はちょっと多いですが(出版社が出している訂正および補足はこちら〔PDF〕),法制審議会での議論や最高裁判例との関係など改正の経緯が詳しく書かれています。

また,条文の文言からはわからない解釈の部分も書かれています。

 

 

こういった学者本などの理由付けや考え方をわかりやすくまとめたのが,以下のテキストです。

以下のテキストは,相続法の改正に(債権法の改正にも)対応しています。

 

 

 

 

 

※なお,債権法の改正については,以下の記事をご覧ください。

 

 

 

※近年の司法書士試験の法改正・最新判例などは,以下の記事にまとめています。

 

 

 

 

松本 雅典

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