2019年(令和元年)の会社法・商業登記法の改正はこれで丸わかり!

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2019年(令和元年)12月,会社法・商業登記法の改正がされました。

この記事でポイントをまとめておきます。

 

 

目次

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改正日・公布日・施行日(スケジュール)

 

改正日:2019年12月4日

公布日:2019年12月11日

施行日:

①原則:公布日から起算して1年6か月以内

→施行予定:2021年3月1日

②印鑑届義務の廃止:公布日から起算して1年3か月以内

→施行予定:2021年2月15日

③電子提供措置,支店所在地における登記の廃止:公布日から起算して3年6か月以内

→施行予定:2022年度中

出題範囲:

上記①:おそらく2021年度~

上記②:2021年度~

上記③:おそらく2023年度~

 

施行予定日は,会社法施行規則のパブリックコメントの資料(PDF)に基づいています。

 

 

条文

改正された条文は,以下のページからご覧いただけます。

 

 

 

改正の大枠

令和元年12月の改正は,改正事項を以下の3つに分類して捉えることができます。

 

 

①株主総会の規定の改正

ex. 議案の要領通知請求権の制限,株主総会参考書類等の電子提供措置の新設

 

②取締役などの規定の改正

ex. 取締役の報酬の明確化,上場企業などの社外取締役の設置の義務化,補償契約・役員等のために締結される保険契約の明文化

 

③その他の規定の改正

ex. 印鑑届義務の廃止,株式交付(新しい組織再編)の創設

 

 

会社法の改正

 

電子提供措置(新設)

 

施行日:公布日から起算して3年6か月以内

→施行予定:令和4年度中

出題範囲:おそらく2023年度~

 

これは,株主総会参考書類や議決権行使書面などを,株主の個別の承諾なしに電子提供できる制度です。

株式会社は,定款で定めることによって,株主の個別の承諾なしに株主総会参考書類や議決権行使書面などを自社のウェブサイトに掲載するなどの方法で提供することができます(会社法325条の2)。

この定款の定めは,登記事項です(会社法911条3項12号の2)。

 

上場企業など株主の多い株式会社では,これらの書面の印刷代や郵送費はかなりの額になります。

また,株主総会参考書類の内容が確定してから発送するまでに通常は2週間程度かかってしまい,株主がすぐに内容を知れないという問題もありました。

そこで,この電子提供措置の制度ができました。

 

 

議案の要領の通知請求権の議案の数の制限(改正)

 

施行日:公布日から起算して1年6か月以内

→施行予定:令和3年3月1日

出題範囲:おそらく2021年度~

 

取締役会設置会社においては,株主が提出しようとする議案の数が10までと制限されました(会社法305条4項柱書前段)。

 

100個の議案を提出して要領の通知請求をするといった株主もいました。

数が多くなると,株主総会の招集通知のコストも膨大になってしまいます。

そこで,「10」という制限がついたんです。

 

なお,役員等の選任・解任・不再任の議案は,議案の数にかかわらず1の議案とみなされます(会社法305条4項1~3号)。

ex. 経営陣の全員の刷新を図りたい株主が提出する議案は,取締役が6人だと12になってしまいます。このうち,2の議案の要領の通知請求ができないのはおかしいですよね。

 

また,定款変更の2以上の議案で,異なる議決がされたとすれば内容が相互に矛盾する可能性がある場合も1の議案とみなされます(会社法305条4項4号)。

ex. 監査役の廃止の議案,監査役会の廃止の議案,監査等委員会の設置の議案が当たります。

 

 

書面による議決権行使書面などの閲覧請求の際の理由の明示および株式会社の請求拒絶事由(改正)

 

施行日:公布日から起算して1年6か月以内

→施行予定:令和3年3月1日

出題範囲:おそらく2021年度~

 

株主が,書面による議決権行使書面,電磁的方法による議決権行使の記録,または,議決権の代理行使の代理権を証明する書面の閲覧または謄写の請求をする場合(会社法310条7項柱書前段,311条4項前段,312条5項前段),請求の理由を明らかにする必要があるとされました(会社法310条7項柱書後段,311条4項後段,312条5項後段)。

株式会社の業務を妨げる目的や,株主の住所などの個人情報を集める目的の請求を防止するためです。

 

このような理由から,株式会社は,「権利の確保又は行使に関する調査以外の目的で」,「利益を得て第三者に通報するため」などの場合は,閲覧または謄写の請求を拒絶できるとされました(会社法310条8項各号,311条5項各号,312条6項各号)。

拒絶理由は,株主名簿の閲覧・謄写請求(会社法125条3項)に合わせられました。

 

 

成年被後見人・被保佐人が取締役,監査役,執行役の欠格事由に非該当(改正)

 

施行日:公布日から起算して1年6か月以内

→施行予定:令和3年3月1日

出題範囲:おそらく2021年度~

 

かつては,成年被後見人や被保佐人は財産の管理能力がないため,取締役になれないとされていました。

司法書士などの他の職種に就くことも大幅に制限されていました。

しかし,「成年被後見人などを社会的に排除している」「成年後見制度の利用を躊躇する人がいる」といった批判を受け,多くの職種に就けるようになり,成年被後見人や被保佐人も取締役監査役,執行役になれるとされました(会社法331条1項2号の削除,335条1項,402条4項)。

 

ただ,実際に取締役の仕事をこなせるかは,個別的に株主総会などが判断します。

こなせないという判断であれば選任しません。

 

成年被後見人,被保佐人は,以下の方法で取締役,監査役,執行役に就きます。

・成年被後見人

 → 成年被後見人の同意(後見監督人がいる場合は後見監督人の同意も)を得た上で,成年後見人が就任の承諾をする(会社法331条の2第1項,335条1項,402条4項)

・被保佐人

 → 原則として保佐人の同意を得た上で,被保佐人が就任の承諾をする(会社法331条の2第2項,335条1項,402条4項)

 

 

社外取締役の設置の義務化(改正)

 

施行日:公布日から起算して1年6か月以内

→施行予定:令和3年3月1日

出題範囲:おそらく2021年度~

 

発行株式について有価証券報告書を内閣総理大臣に提出しなければならない公開会社かつ大会社である監査役会設置会社(上場企業などが当たります)は,社外取締役を設置しなければならなくなりました(会社法327条の2)。

 

上場企業は,多数の株主が株式を分散して保有しているので,株主が十分に取締役を監視できません。

監査役会はありますが,それだけでは不十分で,取締役として取締役会内部に監視をする者も置いたほうが適切な監査ができます。

そこで,取締役の中に外部から招へいした社外取締役を入れて監視体制を強化するのが,先進国のやり方です。

日本でも,平成26年の改正の際,上場企業などで社外取締役の設置を義務づける改正がされる予定でした。

しかし,経済界の反対で,最後の最後で,設置義務を定めるのではなく,設置しない場合には置くことが相当でない理由を説明しろという規定となりました(「comply or explain rule」といいます)。

ですが,上場企業のほぼすべてが社外取締役を置くことを選択しました。そこで,令和元年の改正で,やっと社外取締役の設置義務の規定ができました。

 

ただ,この場合に,社外取締役である旨の登記はしません(会社法911条参照)。

 

 

社外取締役への業務の執行の委託(新設)

 

施行日:公布日から起算して1年6か月以内

→施行予定:令和3年3月1日

出題範囲:おそらく2021年度~

 

以下の①または②の場合に,非取締役会設置会社は取締役の決定,取締役会設置会社は取締役会の決議で,株式会社の業務を執行することを社外取締役に委託することができるようになりました(会社法348条の2第1項,2項)。

 

①株式会社と取締役・執行役との利益が相反する状況にある場合

②取締役・執行役が株式会社の業務を執行することにより株主の利益を損なうおそれがある場合

 

株式会社と取締役・執行役との利益相反取引などの際には,公正な立場から判断できる社外取締役が取引の可否を検討したり交渉をしたりすることが期待されます。

しかし,これらの行為が業務執行に当たるとされると,社外取締役でなくなってしまいます。

そこで,上記①または②の場合には,社外取締役に業務の執行の委託をすることができるとされ,委託を受けた業務を執行しても社外取締役でなくなることがないという規定が新設されました(会社法348条の2第3項本文)。

 

 

取締役の報酬(明文化)

 

施行日:公布日から起算して1年6か月以内

→施行予定:令和3年3月1日

出題範囲:おそらく2021年度~

 

取締役の報酬として,以下の①~③も定められることが明記されました。

 

①募集株式(会社法361条1項3号)

②募集新株予約権(会社法361条1項4号)

③上記①または②の払込みに充てるための金銭(会社法361条1項5号)

 

報酬として上記①~③を定める場合には,募集株式または募集新株予約権の数の上限などを定める必要があります(会社法361条1項3~5号)。

 

 

補償契約・役員等のために締結される保険契約(明文化)

 

施行日:公布日から起算して1年6か月以内

→施行予定:令和3年3月1日

出題範囲:おそらく2021年度~

 

役員等は,職務の執行について損害賠償請求訴訟を提起されたりするリスクがあります。

そこで,主に上場企業では,「補償契約」と「役員等のために締結される保険契約」という契約が活用されています。

優秀な人に安心して役員等になってもらうためです。

しかし,かつては会社法にはこれらの契約についての規定は一切ありませんでした。

そこで,これらの契約の規律を明確にするために明文化されました。

 

・補償契約:株式会社と役員等の間で締結する,以下の①②の全部または一部を株式会社が補償することを約する契約(会社法430条の2第1項)

①役員等がその職務の執行に関して法令の規定に違反したことが疑われまたは責任の追及にかかる請求を受けたことに対処するために支出する「費用」

ex. 役員等が損害賠償訴訟を提起された場合の弁護士費用が当たります。

②役員等がその職務の執行に関して第三者に生じた損害を賠償する責任を負う場合における,役員等が損害賠償することにより生じる「損失」・和解が成立したときの和解金を支払うことにより生じる「損失」

 

 

 

役員等のために締結される保険契約:役員等を被保険者として株式会社と保険者(保険会社など)の間で締結する,役員等が職務の執行に関して責任を負うことまたは責任の追及にかかる請求を受けることによって生じることのある損害を保険者(保険会社など)が填補することを約する契約(会社法430条の3第1項)

これは,株式会社が役員等のために保険会社と保険契約を締結する形式を採ります(生命保険契約でもこういった形式が採られます)。

保険会社にはこのような商品があり,「D&O保険」といわれています。

「D&O」はDirectors and Officersで,役員等のための保険ということです。

 

 

 

上場企業がする取締役の報酬等としての募集株式の発行等・新株予約権の発行(新設)

 

施行日:公布日から起算して1年6か月以内

→施行予定:令和3年3月1日

出題範囲:おそらく2021年度~

 

前述しましたとおり,令和元年の改正で,取締役の報酬等として募集株式・新株予約権を定められることが明記されました。

 

それを受けて,上場企業が取締役の報酬等として募集株式の発行等をする場合,以下の事項を定める必要がないとされました(会社法202条の2第1項柱書)。

“報酬”なので,取締役は出資をする必要がないからです。

・募集株式の払込金額またはその算定方法

・募集株式と引換えにする金銭の払込期日・財産の給付期日または金銭の払込期間・財産の給付期間

 

上場企業が取締役の報酬等として新株予約権の発行をする場合は,以下の事項を定める必要がないとされました(会社法202条の2第1項柱書)。

やはり“報酬”なので,取締役は出資をする必要がないからです。

・新株予約権の行使に際して出資される財産の価額またはその算定方法

 

 

社債管理補助者(新設)

 

施行日:公布日から起算して1年6か月以内

→施行予定:令和3年3月1日

出題範囲:おそらく2021年度~

 

社債管理補助者:社債管理者を置く必要がない場合に,社債権者のために社債の管理の補助を行う者(会社法714条の2本文)

 

現行法には,「社債管理者」の制度があります。

しかし,社債管理者を設置しなくてもよい場合(会社法702条ただし書)に該当する場合が多く,社債管理者を設置している社債発行会社は2割程度しかないのが現状です。

任意に社債管理者を設置することもできますが,社債管理者は「権限大・コスト高・責任大」なので,なかなか設置できないのが現状です。

 

そこで,より使いやすい「権限小・コスト低・責任小」の社債管理補助者という制度ができました。

社債管理者を置く必要がない場合(会社法702条ただし書)に,社債発行会社が任意に置くことができます。

社債管理者と社債管理補助者の双方を置くことはできません(会社法714条の6参照)。

 

 

株式交付(新設)

 

施行日:公布日から起算して1年6か月以内

→施行予定:令和3年3月1日

出題範囲:おそらく2021年度~

 

株式交付:株式会社が他の株式会社を子会社とするためにその他の株式会社の株式を譲り受け,その株式の譲渡人に対してその株式の対価として自社の株式を交付すること(会社法2条32号の2)

 

 

現行法に,「株式交換」があります。

株式交換は,親会社が子会社の株式をすべて取得する必要があります。

しかし,単にある株式会社を子会社にしたいだけの場合もあります。

かつては,これを実現する組織再編はなく,親会社になろうとする株式会社が子会社にしようとする株式会社の株式の譲渡を受けたり,子会社にしようとする株式会社に募集株式の発行等をしてもらったりしていました。

そこで,子会社を作ることができる(完全子会社とする必要はない)制度としてできたのが,この株式交付です。

 

 

株主による責任追及等の訴え(いわゆる株主代表訴訟)における和解の際の監査役などの同意(新設)

 

施行日:公布日から起算して1年6か月以内

→施行予定:令和3年3月1日

出題範囲:おそらく2021年度~

 

取締役(監査等委員・監査委員を除きます),執行役および清算人ならびにこれらの者であった者の責任を追及する訴え(いわゆる株主代表訴訟)において,株式会社がこれらの者と和解するには,監査役設置会社においては監査役全員,監査等委員会設置会社においては監査等委員全員,指名委員会等設置会社においては監査委員全員の同意を得る必要があるとされました(会社法849条の2)。

 

 

商業登記法の改正

 

印鑑届義務の廃止(改正)

 

施行日:公布日から起算して1年3か月以内

→施行予定:令和3年2月15日

出題範囲:2021年度~

 

かつては,登記申請を電子申請でしかしない場合でも,書面申請のときに必要となる印鑑届がマストでした(旧商登法20条)。

しかし,印鑑届をしないことも認められました。

「うちの会社は印鑑届をしない。登記申請は電子申請でしかしないよ。」という選択ができるようになったんです。

「すべての手続をオンラインで!」という政府の政策に基づくものです。

 

 

新株予約権の登記の登記事項 ―― 算定方法(改正)

 

施行日:公布日から起算して1年6か月以内

→施行予定:令和3年3月1日

出題範囲:おそらく2021年度~

 

新株予約権の登記事項として「新株予約権の発行に際して金銭の払込みを要するとするときは,払込金額またはその算定方法(会社法238条1項3号)」というものがあります。

この「算定方法」ですが,算定方法を定めたときでも,算定方法を登記するのは,登記の申請の時までに払込金額が確定していないときに限定されました(会社法911条3項12号ヘかっこ書)。

算定方法は複雑な計算式によることが多いので,新株予約権の登記が登記事項証明書の何ページにもわたり非常に見づらいものとなっていたからです。

 

 

支店所在地における登記の廃止(改正)

 

施行日:公布日から起算して3年6か月以内

→施行予定:令和4年度中

出題範囲:おそらく2023年度~

 

支店所在地における登記が廃止されました。

今は,インターネット上から本店所在地における登記の登記事項証明書の交付を請求できるので,支店所在地における登記の登記事項証明書の交付を求める人は非常に少なく,役割を終えたと考えられるからです。

 

 

改正の規模

……とみてきましたが,受験生の方が気になるのは「どれくらいの規模の改正なの?」ということだと思います。

表現が難しいですが,司法書士試験に与える影響は平成26年の会社法の改正くらいといえると思います。

 

 

 

『リアリスティック会社法・商法・商業登記法』の発売時期

令和元年の改正に対応した『リアリスティック会社法・商法・商業登記法』の発売は,商業登記規則の改正がされ次第となります。

すでにできていて,校正も終わっているのですが,商業登記規則の改正がまだされていません(商業登記法の施行予定日の令和3年2月15日までにはされるはずです)。

商業登記規則の改正の影響も大きなものとなることが予想されます。

また,改正に伴う通達がまだ発出されていません。

申請例や添付書面は,通達によって明らかになると考えられます。

よって,いま市販しても,すぐに買い直していただく必要が生じるため,商業登記規則の改正がされ次第の発売となります。

 

 

ただし,2021年度向けリアリスティック一発合格松本基礎講座の受講生の方には,2020年9月に会社法・商業登記法の講義が開講しているので,2020年9月の会社法・商業登記法の講義の開講時に,会社法と商業登記法の改正を反映させた『リアリスティック会社法・商法・商業登記法』を先行で配付しています。

以下のテキストです。

 

 

 

 

 

 

商業登記規則の改正は,後日,補講とレジュメで対応することになります

 

 

講座の受講生の方以外は,改正法を反映したテキストで学習できるのが少し遅くなりますが,仮に会社法と商業登記法の改正を反映したテキストが市販されたとしても,商業登記規則の改正を受けてすぐに買い直す必要があるため,商業登記規則の改正がされるまでは,現在発売されている『リアリスティック会社法・商法・商業登記法』を使用してください。

会社法の改正は,ほとんどが新しい規定の追加であり,現在の規定がなくなったりするものはほとんどありません。

 

 

解説動画

 

15分でわかる!2019年の会社法・商業登記法の改正(短めの解説動画)

この令和元年の会社法・商業登記法の改正について,私のYouTubeチャンネルで概要をご説明しました。

 

 

 

これでわかる!令和元年の会社法・商業登記法の改正(長めの解説動画)

この令和元年の会社法・商業登記法の改正について,以下の公開講座で概要をご説明しました。

こちらもご活用ください。

 

※レジュメはこちら(PDF)からご覧ください。

 

 

 

 

※近年の司法書士試験の法改正・最新判例などは,以下の記事にまとめています。

 

 

 

 

松本 雅典

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