本人確認証明書―基本部分

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平成27年2月3日の商業登記規則の改正(平成27年2月27日施行済)で,「本人確認証明書」が添付情報として追加されました。

本人確認証明書について,基本部分を確認していきましょう。

「基本部分」といいつつ,結構ガッツリ書いてしまいましたが…。

 

 

目次

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条文

条文を確認されたい方は,以下に載せておきますので,ご確認ください。

 

商業登記規則61条(添付書面)

7 設立の登記又は取締役,監査役若しくは執行役の就任(再任を除く。)による変更の登記の申請書には,設立時取締役,設立時監査役,設立時執行役,取締役,監査役又は執行役(以下この項において「取締役等」という。)が就任を承諾したことを証する書面に記載した氏名及び住所と同一の氏名及び住所が記載されている市区町村長その他の公務員が職務上作成した証明書(当該取締役等が原本と相違がない旨を記載した謄本を含む。)を添付しなければならない。ただし,登記の申請書に第二項(第三項において読み替えて適用される場合を含む。)又は前項の規定により当該取締役等の印鑑につき市区町村長の作成した証明書を添付する場合は,この限りでない。

 

 

趣旨

改正前までは,本人確認が行われていなかった役員等については,この世に存在しない者,たとえば,「年月日取締役松本ドラえもん就任」という登記も理論上は通ることになっていました。

「さすがにそれはマズイだろ~」ということで,本人確認が行われていなかった役員等について,実在を証明する書面が要求されることになりました。

 

 

添付書面の具体例

たとえば,以下のものが当たります。

他にもあるんですが,全部記憶するのはやりすぎでしょう。

 

・住民票の写し

・戸籍の附票

・運転免許証等のコピー

裏面もコピーし,取締役・監査役・執行役本人が「原本と相違がない。」と記載して,記名押印する必要があります。

・在留カードのコピー(外国人の場合)

裏面もコピーし,取締役・監査役・執行役本人が「原本と相違がない。」と記載して,記名押印する必要があります。

運転免許証等のコピー等も認められているのは,上場企業などの役員は外国人である場合も多いため,申請会社の負担を考えての扱いです。

 

 

本人確認証明書が要求される役員等

上記の「本人確認が行われていなかった役員等」とは,以下の者です。

以下の者について,本人確認証明書が要求されることになりました(商登規61条7項本文)。

 

・取締役

・監査役

・執行役

 

「他の役員等は?」と思われると思いますので,他の役員等について本人確認証明書を添付しなくてもいい理由を書いておきます。

 

・会計参与

もともと「資格を証する書面」(税理士であることを証する書面など)が要求されていますので,もとから実在性は担保されています。

・会計監査人

もともと「資格を証する書面」(公認会計士であることを証する書面など)が要求されていますので,もとから実在性は担保されています。

 

・代表取締役

取締役の登記の際に本人確認証明書が要求されるので,代表取締役の登記の際に要求する必要はありません(代表取締役は必ず取締役の登記がされています)。

 

・代表執行役

執行役の登記の際に本人確認証明書が要求されるので,代表執行役の登記の際に要求する必要はありません(代表執行役は必ず執行役の登記がされています)。

 

・清算人

清算人は清算業務のみを行うので,取締役と同様の実在性の確認までは不要だと考えられました。

 

 

添付が要求される登記

以下の登記です(商登規61条7項本文)。

 

1.設立登記(組織変更,新設合併,新設分割,株式移転,特例有限会社から株式会社への移行による設立も含む)

 

2.就任登記(会社継続も含む)

昨年の3月の補講時点では,「特例有限会社から株式会社への移行による設立」など一部は,「おそらく」としていましたが,試験委員である松井先生『商業登記ハンドブック(第3版)』P594などに明記されましたので,上記のとおり記憶していただいて問題ありません。

 

 

例外的に添付が不要となる場合

上記の要件を充たしても,添付が不要となる場合があります。

以下のいずれかの場合です。

 

 

1.商業登記規則61条4~6項のいずれかにより,取締役・監査役・執行役が就任承諾書または選定を証する書面に押印した印鑑につき市区町村長の作成した印鑑証明書を添付した場合,その取締役・監査役・執行役についての本人確認証明書は不要となります(商登規61条7項ただし書)

印鑑証明書により,実在性の確認ができるからです。

 

2.就任登記が再任の登記である場合,再任する取締役・監査役・執行役については本人確認証明書は不要となります(商登規61条7項本文かっこ書)

就任登記の際に実在性を確認しているからです。

「再任の登記の時も,本人確認証明書を求めるべきでは?」という意見もあったのですが,申請会社の負担となるからという理由で,再任の登記の時は不要とされました。

 

※注意

取締役・監査役・執行役の氏名または住所の変更登記または更正登記については改正がされていないので(商登法132条2項ただし書),これまでどおり,住民票の写しなどは不要です。

添付書面は,代理人申請による場合の「委任状」のみです。

これについても,「本人確認証明書を求めるべきでは?」という意見があったのですが,法務省は「今後の参考にします」としました。

更正の登記の条文である商業登記法132条2項ただし書は,商業登記「法」であり,国会の議決まで必要ですから,大変なのかなと思います。

 

 

 

※近年の司法書士試験の法改正・最新判例などは,以下の記事にまとめています。

 

 

 

 

松本 雅典

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