・平成26年改正会社法の基本情報
色々な分類方法がありますが,私は今回の会社法の改正を以下の3つに分類してご説明しています。
1.大企業のコーポレート・ガバナンスの改正
2.親子会社関係の整備
3.その他会社法施行後に浮かび上がった問題点の改正
「親子会社」と言われると,みなさんどうでしょう?
もちろん,「ある株式会社が別の株式会社の総議決権の過半数を有する場合,そのある株式会社を『親会社』といい,別の株式会社を『子会社』という」(会社法2条3号,4号)ということはご存知でしょう(会社法施行規則3条の定義までは細かいです)。
また,たしかに,昨年度の午前の第29問で「自己株式と親会社株式」という出題はありました(正解できなかった方も多いでしょうが)。
しかし,「あまり勉強していない」という方が多いでしょう。
その理由の1つに,「親子会社関係は,会社法制定時に残された課題であった」ということがあります。
どういうことかというと,会社法の制定時から親子会社関係の規制には問題があると言われており,その課題が残されたまま(手をつけないまま)会社法は制定されたのです。
よって,会社法制定直後から,親子会社関係についての改正をするべきだと言われていました。
そこで,今回改正がされたわけです(すべての親子会社関係の問題が整備されたとは言えませんが)。
このような経緯があったため,司法書士試験対策においては,親子会社関係の論点についてはあまり深くは扱っていません。
この「2.親子会社関係の整備」に分類されるものには,たとえば,以下の改正があります。
新旧対照条文(PDF)
・親会社による子会社株式の譲渡に関する規制(改正会社法467条1項2の2号)
・特定責任追及制度(いわゆる多重代表訴訟)の創設(改正会社法847条の3)
責任追及等の訴え(会社法847条)いわゆる,「株主代表訴訟」〔以下,こういいます〕)は,ご存知ですよね。
本来株式会社がすべき取締役などに対する責任追及を,株主が代わりにするという正義のヒーローのような訴えです。
「正義のヒーローのような訴え」といったのは,この訴訟は株主が勝訴しても,お金が入ってくるのは株主ではなく株式会社なのです。
だから,年間200件程度しか提起されないのです(かつては,数十件でした)。
ここで考えていただきたいのですが,株主代表訴訟を提起するのは誰ですか?
「株主」ですよね(先に答えを書いてしまっていますが)。
そこで,責任追及される取締役などがいる株式会社が,ある株式会社の完全子会社(100%の株式を持たれている)であったら,どうなるでしょう。
提起できるのは,完全親会社のみとなります。
提起しますか?
する場合もあるでしょうが,完全親会社と完全子会社は実質的に1つの会社であるということもあります。
昨今流行りのHD(ホールディングス。持株会社)がその例です。
そうすると,取締役が重なっていることなどが多く,完全子会社の株主である完全親会社が株主代表訴訟を提起しない蓋然性が高くなります。
誰が困るでしょうか?
完全親会社(HDなど)の株主です。
完全子会社の取締役などのせいで,完全親会社が損失を被り,ひいては完全親会社の株主が損失を被ることになります。
そこで創設されたのが,特定責任追及制度(いわゆる多重代表訴訟。改正会社法847条の3)です。
最終完全親会社等の株主が完全子会社の取締役などの責任追及の訴えを提起することができるのです。
ただし,要件がかなり厳しいので,実際に提起できる場合はかなり限られますが・・・。
なお,親子会社関係の規制を考える際には,上記の色を変えた箇所が,大きなポイントとなります(会社法・商業登記法のテキストにメモしておいて下さい)。
つまり,「親子会社の関係性」がポイントとなるということです。
松本 雅典