姫野先生も,本試験当日の速報会で「最初は誤りかと考えた」といった趣旨の発言をされていましたが,午前第29問・5は少し悩まされました。
午前第29問・5は,以下のとおりです。
5 自己株式を処分する場合には募集事項を決定しなければならないが,自己新株予約権を処分する場合には募集事項を決定することを要しない。
→本問は単純正誤問題で,この肢が正しい肢(正解肢)だと考えられます。
後半は,問題ありません(23-29-エでも出題されています)。
問題は,前半です。
私は,本試験当日,以下のようにメモをしています。
*鉛筆が当日のメモです。
自己株式を処分する方法は,募集株式の発行等の方法(会社法199条以下の方法)以外にも,たとえば,株式無償割当ての際に自己株式を交付するなどの方法があります。
ただ,「他の場合があっても,単に原則を聞いているのであれば正しいと判断する」というのが基本です。
たとえば,ある条文の「本文が原則」で「ただし書が例外」の場合に,「単に本文だけを記載した肢」は正しい肢と判断します(例外がないように書いていた場合を除きます)。
では,自己株式を処分する方法は,募集株式の発行等の方法によることが原則でしょうか。
そのような記載をしている書籍があります。
『株式会社法』(第5版。江頭 憲治郎)P268
会社が自己株式を処分するには、法がとくに別の処分方法を認める場合を除き、株式の発行……と同じ募集の手続を経てなすことを要する(会社法199条1項)。
『会社法』(田中 亘)P410
自己株式の処分は,募集株式の発行(199条以下)と経済実質を同じくするため,それと基本的に同一の規制に服して行う必要がある……。ただし,会社法の規定により会社が株式を交付すべき場合(108条2項5号ロ6号ロ・171条1項1号イ・185条・749条1項2号イ)に,新株の代わりに自己株式を交付するときは,募集株式の発行の手続は必要ない。
「募集株式の発行等の方法によることが原則であるという理解のうえで,原則のほうを聞いている」という出題だと思われます。
ただ,そこまで受験生の方に判断させるのは,酷ではないでしょうか。
おそらく「自己株式の処分は,募集株式の発行等による方法とそれ以外の方法がある」ということは考えられた受験生の方が多いと思います。
しかし,どこまで聞いているかわからず,誤りとしてしまった方が多いと思います。
他の肢が容易に判断できるかというと,そうではありません。
3を除き,自己新株予約権については,「そんな規定があるかな?」と考えてしまった方が多いと思います。
データリサーチでも,本問の正答率はかなり低いです。
松本 雅典