この記事は,平成29年5月4日に公開しましたが,以下のとおり追記しています。
・平成29年5月13日,新設された条文が1つ抜けていたので(改正不動産登記規則28条の2第6号),追記しました。
・平成30年4月16日,相続登記を更に促進するため,従前の通達(平成29年4月17日法務省民二第292号)の一部を改正する通達が出たので(平成30年3月26日法務省民二第166号),追記しました。
・令和3年3月29日,署名または押印を不要とする改正がされたため,追記しました。
不動産登記規則の改正により「法定相続情報証明制度」が新設されました。
・「法定相続情報証明制度」について(法務省)
この記事で法定相続情報証明制度についてまとめます。
長くなってしまいましたが,この記事自体がレジュメのようなものだと思ってください。
目次
改正日・施行日
平成29年4月17日改正
平成29年5月29日施行
平成30年度以降の試験範囲です。
条文
新設された条文は,以下のとおりです。
・法定相続情報証明制度の条文(不動産登記規則)(PDF)
・改正不動産登記規則27条の6
・改正不動産登記規則28条の2第6号 ■この条文が抜けていたので,平成29年5月13日に追記しました。
・改正不動産登記規則37条の3
・改正不動産登記規則247条
・改正不動産登記規則248条
法定相続情報証明制度とは?
法定相続情報証明制度とは,相続人などが登記官に法定相続情報一覧図の保管および写しの交付の申出をし,登記官が法定相続情報一覧図の写し(後記の【見本】参照)の交付をする制度です(改正不動産登記規則247条)。
相続が開始すると,相続人は,色々な機関で手続をする必要があります。
相続登記のために登記所へ,被相続人の預金の払戻しのために銀行へなど……。
これまでは,機関ごとに戸籍全部事項証明書などを提出する必要があり,かなり大変でした。
しかし,登記官に法定相続情報一覧図の保管および写しの交付の申出をし,登記官から法定相続情報一覧図の写しの交付を受け,法定相続情報一覧図の写しを戸籍全部事項証明書などの代わりとすることができます。
なお,これまでどおり,手続ごとに戸籍全部事項証明書などを提出することも問題ありません。
改正の趣旨
相続登記がされずに放置されている不動産が増え,所有者が不明となってしまう不動産や空き家問題が社会問題になっています。
そこで,相続関係の手続を簡便にし,「相続登記などをしてくださいね~」という趣旨(相続登記の促進)でこの制度ができました。
なお,使い道は相続登記に限られるわけではありません。
銀行に対する預金の払戻しなどにも使われることが想定されています。
よって,不動産の権利を有していない被相続人についての相続でも,この制度が使えます(改正不動産登記規則247条1項柱書の「その他の者」は不動産の権利を有していない被相続人を想定した記載です)。
より深く改正の趣旨を知りたい方は,以下のパブリックコメントの結果を読んでみてください。
パブリックコメントの結果をザーっと読んでいくと,制度を作った側の意図がよくわかります。
・パブリックコメント/意見募集の結果について(法務省民事局民事第二課。PDF)
手続
1.申出をすべき登記所
以下のいずれかの地を管轄する登記所に対して申出をします(改正不動産登記規則247条1項柱書)。
①被相続人の本籍地
②被相続人の最後の住所地
③申出人の住所地
④被相続人を表題部所有者または所有権の登記名義人とする不動産の所在地
④の不動産の所在地に限られないのは,使い道が相続登記に限られるわけではないからです。
また,申出人がこの制度を使いやすいよう選択肢を増やしているという理由もあります。法務省は,「ぜひ使ってください!」という姿勢なので。
2.申出ができる者
登記官に法定相続情報一覧図の保管および写しの交付の申出ができるのは,基本的には相続人です(改正不動産登記規則247条1項柱書)。
ただし,相続人が死亡し数次相続が生じている場合は,相続人の相続人も申出ができます(改正不動産登記規則247条1項柱書)。
相続登記がされずに放置されている不動産は,数次相続が生じていることも多いからです。
※代理人による申出
代理人によって申出をすることもできます。
代理人となれるのは,たとえば以下の者です(改正不動産登記規則247条2項2号かっこ書)。
①申出人の法定代理人(ex. 申出人が未成年者である場合の親権者)
②申出人の親族
③資格者代理人(弁護士,司法書士,税理士,社会保険労務士,行政書士など)
3.添付する書面
上記2.の者が,上記1.の登記所の登記官に法定相続情報一覧図の保管および写しの交付の申出書を提供します(改正不動産登記規則247条2項)。
申出書の提供は,郵送によることもできます。
この申出書には,以下の書面を添付する必要があります(改正不動産登記規則247条3項)。
①法定相続情報一覧図
以下の情報が記載されたもので,後記の「【見本】(法定相続情報一覧図の写し)」の基となるものです。
・被相続人の氏名,生年月日,最後の住所および死亡年月日(改正不動産登記規則247条1項1号)
・相続開始の時における同順位の相続人の氏名,生年月日および被相続人との続柄(改正不動産登記規則247条1項2号。相続人の住所の記載は任意です)
・作成をした申出人または代理人の署名または記名押印【令和3年3月29日追記】令和3年3月29日,署名または押印が不要となりました。記名は必要です。
②被相続人の出生時からの戸籍全部事項証明書など
③被相続人の最後の住所を証する書面
住民票の除票の写しなどが当たります(平29.4.17民二.292)。
④相続人の戸籍一部事項証明書など
⑤申出人が相続人の地位を相続により承継した者であるときは,これを証する書面
数次相続が生じている場合に添付します。
戸籍全部事項証明書などが当たります(平29.4.17民二.292)。
⑥申出書に記載されている申出人の氏名および住所と同一の氏名および住所が記載されている市町村長その他の公務員が職務上作成した証明書(その申出人が原本と相違がない旨を記載した謄本を含みます)
申出人の本人確認のために添付します。
運転免許証の写しなどが当たります(平29.4.17民二.292)。
⑦代理人が申出をするときは,その代理人の権限を証する書面
*「平29.4.17民二.292」とありますが,「不動産登記規則の一部を改正する省令の施行に伴う不動産登記事務等の取扱いについて(通達)」(平成29年4月17日法務省民二第292号)が発出されています。
上記の書面が添付され,申出が適法にされると,以下の【見本】のような法定相続情報一覧図の写しが交付されます。
交付の手数料はかかりません(無料です)。
「相続登記などをしてくださいね~」という趣旨の制度であり,ドンドン利用してもらいたいため,無料とされています。
*1 最後の住所だけでなく,最後の本籍も記載することが推奨されています(平30.3.29民二.166)。【平成30年4月16日追記】
*2 続柄の表記は,原則として戸籍に記載されるもの(ex. 「夫」「妻」「長男」「長女」「養子」)を記載します。ただ,「配偶者」や「子」の記載でも構いません(平30.3.29民二.166)。【平成30年4月16日追記】
*3 相続人の住所の記載は任意ですが,これは相続人の住所を記載した法定相続情報一覧図の写しです。
不動産登記での使用
相続があったことを証する情報
上記の法定相続情報一覧図の写しは,法定相続人を証する情報を提供する不動産登記での手続の際に,相続があったことを証する市町村長その他の公務員が職務上作成した情報の提供に代えることができます(改正不動産登記規則37条の3。平29.4.17民二.292)。
登記申請に限りません(ex. 以下の③)。
たとえば,以下の手続で使えます。
①相続を原因とする権利の移転の登記
②相続を原因とする債務者の変更の登記
③登記識別情報の失効の申出・有効証明請求
住所証明情報【平成30年4月16日追記】
上記の法定相続情報一覧図の写しは,相続人の住所が記載されていれば,相続人の住所証明情報にも使えます(平30.3.29民二.166)。
なお,以下のテキストには,法定相続情報証明制度の説明も記載しています(P435~439)。
※近年の司法書士試験の法改正・最新判例などは,以下の記事にまとめています。
松本 雅典