遺産分割の論点――「数次相続と遺産分割」「一人遺産分割」

法改正・最新判例・先例・登記研究 - 不動産登記法

平成28年度の不動産登記(記述)では,相続が出題されませんでした。記述で相続の出題が2年連続ないことはあまり考えられないため,平成29年度は相続から出る確率が高いです。

 

相続といっても,論点が多数ありますが,そろそろ出そうなのが「遺産分割」です。
実務でも多いですし,近年の記述の出題の中心である「申請件数と申請順序」(*)を問う論点もあるからです。

*司法試験と違い,最低限のことしか書かれない出題の趣旨に明記されていることですので,記述で申請件数と申請順序を問いたいのは明らかです。

 

 

近年の記述のレベルを考えると,単に

 

「父が死亡し,相続人である長男と次男が遺産分割協議をして,長男が不動産を相続した

法定相続分による相続登記がされていなければ,1/1で長男に相続を原因とする所有権の移転の登記を申請する」

 

といった単純な問題ではなく,この記事のレベルの出題は覚悟しておいてください。

 

 

後半の「一人遺産分割」は,姫野先生の以下の記事からネタをパクっていますがパクっていますが,大事なので私も書いておきますね。

 

遺産分割の協議後に他の相続人が死亡して当該協議の証明者が一人となった場合の相続による所有権の移転の登記の可否について

 

続・遺産分割の協議後に他の相続人が死亡して当該協議の証明者が一人となった場合の相続による所有権の移転の登記の可否について

 

 

*少し長い記事になってしまいましたが……この記事自体がレジュメのようなものだとお考えください。

*以下で説明する「一人遺産分割」については,私の基礎講座では,平成29年度向けでは説明しています(不動産登記〔記述〕第7回)。平成28年度向け以前の講座では説明していませんので,知識として追加してください。記述の出題も考えられます。

 

 

目次

閉じる

数次相続と遺産分割

 

原則

相続が生じ(第一の相続),それに基づく遺産分割協議および相続登記が行われる前に,相続人にさらに相続が生じた場合(第二の相続),第一の相続と第二の相続の遺産分割協議を同時にすることができます(昭29.5.22民事甲1037)。

第一の相続の相続人のうち死亡している者については,その相続人が代わりに遺産分割協議を行います。

……といわれてもわかりにくいでしょうから,具体例で確認しましょう。

 

ex. 不動産の所有者Aが死亡しました。Aには子BCがいました。BCの間で遺産分割協議および相続登記が行われる前に,Bが死亡しました。Bには妻Dおよび子Eがいます。この場合に,CDEが遺産分割協議をし,Eが単独でこの不動産を相続することとなった場合,以下の登記を申請できます。

1/1 AからEへの相続を原因とする所有権の移転の登記

 

 

以下の2つの遺産分割協議を同時に行ったからです。

 

・第一の相続(Aの相続)についての遺産分割協議

DE(Bの代わり)およびCが遺産分割協議を行い,この不動産をBが相続することにしました。

DEは,Bを相続していますので,Aの相続について遺産分割協議ができるBの地位も相続しており,Bの代わりに遺産分割協議ができるのです。

 

・第二の相続(Bの相続)についての遺産分割協議

DおよびEが遺産分割協議を行い,この不動産をEが相続することにしました。

 

第一の相続(Aの相続)についての遺産分割協議により中間が単独の相続となったため,相続を原因として直接Eに所有権の移転の登記を申請できます。

 

 

一人遺産分割

一人遺産分割は認められません(平28.3.2民二.154,東京高判平26.9.30,東京地判平26.3.13)。

これは,平成28年3月に出た新しい先例なので,ご注意ください。

 

「一人遺産分割」とは,以下のような遺産分割です。

 

  1. ex. 不動産の所有者Aが死亡しました。Aには妻Bおよび子Cがいました。BCの間で遺産分割協議および相続登記が行われる前に,Bが死亡しました。Bの相続人は,Cのみです。この場合,Cは,Aの相続について,一人で遺産分割協議をすることはできません。よって,以下の登記を申請することになります。

1/2 AからBCへの相続を原因とする所有権の移転の登記

2/2 BからCへの相続を原因とするB持分全部移転の登記

 

 

たしかに,Aの死亡時点では相続財産がBCの共有になっており,遺産分割をすることができました。

しかし,Bが死亡したことにより,Cが相続財産を単独で相続しているため,相続財産は共有状態ではなくなっています。

そのため,相続財産が共有状態の場合に認められる遺産分割ができないのです(東京高判平26.9.30,東京地判平26.3.13)。

 

 

※一人遺産分割には当たらない事例

上記の一人遺産分割と混同してしまいがちな事例があります。

下記ex1.とex2.の場合は,一人遺産分割に当たらず認められていますので,ご注意ください。

 

判断基準

上記の裁判例(東京高判平26.9.30,東京地判平26.3.13)の理由が判断基準となります。

・相続財産が共有状態の時点で遺産分割をしている

→一人遺産分割にあたらない(認められる)

・相続財産が単有状態の時点で遺産分割をしている

→一人遺産分割にあたる(認められない)

 

遺産分割は,共有状態を解消するためにするものだからです。

 

上記が一人遺産分割に当たるか(認められないか)の判断基準となり,非常に重要です。
上記の判断基準さえ記憶していれば,この記事のex.について「遺産分割協議ができるか?」は判断できます。

この記事のex.を,上記の判断基準で見てみてください。

すべて判断できることがおわかりいただけます。

 

 

ex1. 不動産の所有者Aが死亡しました。Aには妻Bおよび子Cがいます。BCの間で遺産分割協議が行われ,Cが単独でこの不動産を相続することとなりました。その後,Bが死亡しました。Bの相続人は,Cのみです。この場合,Cは,以下の登記を申請できます。

1/1 AからCへの相続を原因とする所有権の移転の登記

 

 

Bの死亡前の相続財産が共有状態の時点で遺産分割をしていますので,問題ありません(上記の「判断基準」)。

 

 

ex2. 不動産の所有者Aが死亡しました。Aには妻Bおよび子CDがいます。BCDの間で遺産分割協議および相続登記が行われる前に,Bが死亡しました。Bの相続人は,CDです。この場合に,CDが遺産分割協議をし,Cが単独でこの不動産を相続することとなったときは,以下の登記を申請できます。

1/1 AからCへの相続を原因とする所有権の移転の登記

 

 

Bは死亡しましたが,BをCDが相続しており,相続財産が共有状態の時点で遺産分割をしていますので,問題ありません(上記の「判断基準」)。

 

 

判断基準や共通する視点を押さえる勉強をしてください。

これが知識の抽象化であり,真の勉強です。

 

 

※近年の司法書士試験の法改正・最新判例などは,以下の記事にまとめています。

 

 

 

 

松本 雅典

関連記事